3Dプリンター設置のコツ:温度・湿度・防音・換気を徹底管理

hapicom Inc.オリジナルブランドAnyWare(エニウェア)の設計製造を担当している伊田です。

AnyWareでは、「あったらいいな」をコンセプトに、さまざまな製品開発を行っており、一部の製品はAmazonでも販売しております。

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その製造に欠かせない3Dプリンターを効果的に活用するためには、設置環境が非常に重要です。効率的で安全な作業環境を整えることが、製品のクオリティを左右する鍵となります。

この記事では私が気づいた3Dプリンターを設置する際に注意すべきポイントをご紹介します。

1. 3Dプリンターの基本

1-1. 3Dプリンターの主要な方式

3Dプリンターにはさまざまな方式がありますが、代表的なものは以下のとおりです。

  • FDM(熱溶解積層方式)
    • フィラメント(樹脂)を熱で溶かし、層を積み重ねて造形。
    • 低コストで導入しやすく、家庭用から業務用まで幅広く利用される。
    • 造形速度が速く、大型造形が可能だが、積層跡が目立ちやすい。
    • 主な材料:PLA、ABS、PETG、TPUなど
  • SLA(光造形方式)
    • 液体レジンを紫外線レーザーで硬化させる方式。
    • 非常に高精細な造形が可能で、細かいディテールが求められる用途に適している。
    • 造形後の後処理が必要(洗浄・二次硬化)。
    • 主な材料:レジン(光硬化樹脂)
  • その他の方式
    • SLS(選択的レーザー焼結):粉末素材をレーザーで焼結して造形。
    • DLP(デジタル光処理)SLAと似ているが、プロジェクターを用いて層を硬化。
    • インクジェット方式:液体樹脂をインクジェットヘッドで噴射し硬化。

2. 設置場所の選定

3Dプリンターを適切に運用するには、設置環境が非常に重要です。

2-1. 設置場所の基本条件

  • 平坦で安定した場所
    • 造形時の振動を抑えるために、しっかりとした安定した机や棚を選択。
    • 大型の3Dプリンターは耐荷重性の高い台を用意する。
  • 通気性の確保
    • 3Dプリンターは印刷中に臭いや人体に悪影響のあるガスが発生します。換気扇を設置するか、窓の近くに置くことで匂いや有害ガスを外へ逃がすことができます。
  • 防塵対策
    • 造形時にホコリが付着すると失敗の原因になるため、クリーンな環境を維持する。

3. 騒音対策

3Dプリンターステッピングモーターの動作音やファンの回転音が発生するため、騒音対策が必要です。

3-1. 騒音を軽減する方法

  • 防音マットの使用
    • 振動を抑えるために、制振パッドや防音マットをプリンターの下に敷く。
  • 別室に設置
    • 可能なら作業スペースとは別の部屋にプリンターを設置し、リモート監視する。
  • エンクロージャーの利用
    • プリンターを囲うケースを利用すると、騒音低減に加え、温度・湿度管理もしやすくなる。

4. 温度と湿度の管理

造形品質を安定させるためには、適切な温度・湿度管理が必要です。

4-1. 温度管理

  • 適正な室温:20~25℃
    • 低温すぎると造形物の収縮が起こりやすく、反りや層割れの原因になる。
    • フィラメントの種類によっては印刷ができないものも。
  • 冬場の対策
    • ヒーターやエンクロージャーを活用して安定した温度を維持。

4-2. 湿度管理

  • 適正湿度:30~50%
    • 湿度が高いとフィラメントが水分を吸収し、造形不良の原因となる。
    • 乾燥剤を入れた密閉ケースでフィラメントを保管。

5. スペースの最適化

複数台の3Dプリンターを使用する場合、効率的なスペース設計が求められます。

5-1. 設置方法の工夫

  • メタルラックでの管理
    • 初めは2台を並べて配置してみましたが、振動が影響しあい造形精度が低下した為、独立したラックに分けました。そうすると、振動は抑えられましたが、設置スペースが大幅に増加してしまう。
  • 現在の最適化方法
    • 床に防振ゴムを敷いて設置し、その上にラックを設置することで、省スペース化と振動の低減を両立させました。
    • ラックの棚部分にフィラメントや工具を収納し、作業効率を向上。
    • 問題点として、プリンターの位置が低いので作業しにくい点と、床からの温度が印刷時に大きく影響してしまいます。

6. ネットワーク接続の確保

3Dプリンターには、機種によってWi-FiやLAN接続に対応しているものがあります。これにより、パソコンやスマートフォンから直接プリンターにデータを送信し、遠隔で印刷を開始・管理することが可能になります。

6-1. ネットワーク対応の利点

3Dプリンターは機種によってネットワーク対応の機器があります。

  • デスクから直接印刷
    • モデリングPCから直接データを送信できるため、想像以上に作業効率があがります。
    • ネットワーク経由で複数台のプリンターを管理可能。
  • リモート監視の活用
    • カメラを設置することで印刷状況をリアルタイムで確認可能。
    • OctoPrintやメーカー純正のスライサーなどのツールを活用すると、遠隔からの制御も可能。※CrealityだとCleality Cloudでプリンターやモデルデータのの管理も行えます。

6-2. 接続環境の注意点

  • Wi-Fiの電波干渉に注意
    • プリンターを複数台設置すると、Wi-Fiの接続が不安定になることがある。
    • 有線LAN接続やWi-Fi 6対応のルーターを活用すると安定性が向上。
  • 停電・通信障害対策
    • UPS無停電電源装置)を設置すると、停電時も造形データが失われずに済む。
    • クラウドストレージにモデルデータをバックアップしておく。

まとめ

3Dプリンターの導入・運用においては、印刷環境の整備が非常に重要だと実感しています。私が特に重要だと感じたのは室温管理振動対策の2点です。

室温が大きく変わると均一な印刷が極端に難しくなりました。特に冬、夏の大きな温度・湿度の変化があると前に印刷した物とクオリティが著しく変わったことがありました。

対策として、エンクロージャーの設置も検討しましたが、以下の理由から導入に踏み切れていません。

  • 設置スペースを大きく取る必要がある
  • 作業時に毎回開閉する手間が増え、狭い空間内での作業が難しくなる

理想的な環境としては、振動対策を施した大きな棚を用意し、その中にプリンターを設置することを考えています。さらに、フロント部分にはアクリル板などの透明な素材を使用し、視認性を確保することで、印刷状況を確認しやすくするのが理想です。

この方法であれば、振動の影響を抑えつつ、温度や湿度の管理もしやすくなり、作業効率も向上するのではないかと考えています。

これから3Dプリンターを導入する方や、運用改善を考えている方の参考になれば幸いです。