hapicom Inc.ことハッピーコンピューター株式会社では、様々な業界におけるご相談やご依頼の中で「一筋縄ではいかない問題」に直面することが多々あります。
本問題解決シリーズでは、これまでにあった一筋縄ではいかない問題について、公開できる範囲でストーリー仕立てにしてご紹介していきます。
あまりオープンな場ではみられないような案件が多いので、こんな世界もあるのかと楽しんで読んでいただければ幸いです。
非デジタルな受付に対応せよ!問題編
hapicomメンバーは会議室で話を聞いていた。
お相手は某出版社の役員である。
ご存じの方もいらっしゃると思われるが、作品の売り上げは出版社に入ってくるため、そこから作家さんに印税を振り込むのは出版社側で行なわなければならない。
今ミーティングで議題に挙がっているのは、この印税の行方についてである。
あるはずのお金がない、という横領のような話ではなく、むしろ余っているのだ。
その実態を紐解いていくと、遠い昔に出版された作品は時の流れとともに作家さんの状況も変化し、例えば死去するなどして振込先が分からなくなるようなケースが出てくるというのが原因だった。
個々の金額が微々たるものであったことから行き場のない印税はそのままにされていた*1が、積もり積もってそこそこの金額になっており、一度きちんと作家さんや遺族の方などに確認して、分かる範囲で振込先や今後の連絡手段などの情報をアップデートしましょうということになった。
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さてどうしたものか。
いつもならGoogleフォームなどを使って受付用フォームをさくっと作り、いついつまでに情報を入力してくださいとメールでご案内するところだ。
だが、今回ばかりはWebフォームでの受付のみに頼るわけにはいかなかった。
なにしろ手元の台帳に書かれている連絡先は住所と電話番号だけでメールアドレスなどなく、パソコンもスマートフォンも持っていない、つまりWebフォームへのアクセス手段がない人がいる可能性があったためだ。
まず、ご案内の通知は郵送一択だ。
宛先不明で届かなかったら個別に電話して、それでも無理ならもう連絡手段はない*2ので諦めるしかない。
情報の収集については、Webフォームでの受付はもちろん主力ではあるが、紙ベース、つまりFAXや郵送での情報提供手段は用意しなければならない。
今回、どのような形で受付体制を整えれば丸く収まるだろうか。
非デジタルな受付に対応せよ!解決編
今回、問題としては「Webフォーム、FAX、郵送の三つの手段でそれぞれ権利者の情報を集める」ということになりますので、じゃあやればいいじゃんと思うかもしれません。
ですが、相手の会社にはそれを人力でこなすだけの余力がなく、専任で人を配置することはもちろん、この案件に気を回せる人の確保すら難しい状態で、愚直に進めば色んな方向から集まった情報をまとめられない可能性がありました。
そのため、送られてきた情報を絶対に取りこぼさないような形でシステムや体制を組む必要がありました。
解決方法
結論からお話しすると、hapicomから提案した手段は以下の図のような構成での集約でした。
通知文書、記入用紙、WebフォームへのQRコード等を各権利者宛に郵送し、Googleフォーム、FAX、郵送のいずれかの手段で現在の情報を返してもらうという形式です。
なお、これらとは別にTwilioを用いたIVR(電話の自動応答や録音、書き起こし)による不明点などのお問い合わせ対応も行いました。
最終的には三つの方法で送られてきた情報を一箇所にまとめる必要がありますが、Googleスプレッドシートであれば、Googleフォームで入力された情報が自動的に入ることや、複数人でいつでも遠隔で閲覧または編集(権限操作含め)できるという利点があります。
2. Googleフォームへの入力代行
FAXや郵送といった紙ベースでの情報提供の場合、相手の会社の人もしくはhapicom側で内容を確認しつつ手作業でGoogleフォームへの入力を代行します。
スプレッドシートに直接記入していく方式は、ITに不慣れな人だとうっかり上書きしてしまったりする事故が考えられるため、スプレッドシートへのデータ入力は必ずGoogleフォームを経由させました。
3. FAXをIP-FAXで受け、Googleドライブの指定フォルダに自動で保存
漏れが最も発生しそうな、FAXで送られてきた用紙が自動的にGoogleドライブの指定のフォルダにファイルとして置かれるようにした点が、この受付体制の重要なポイントだと思います。
TwilioのプログラマブルFAX*3を使い、Twilioの専用のFAX番号宛に送られてきた書類がそのままGoogleドライブのフォルダにPDFファイルとして置かれます。
指定のフォルダにあるファイルは未処理のものとして、必ずGoogleフォームへの代行入力が行われることを保証します。
4. 相手の会社での人手作業を郵送されてきた用紙に集中
相手の会社には「郵送で送られてきた用紙だけ、確実に特定の書類入れなどに置かれるようにし、それをGoogleフォームに手作業で入力するようにしてください」と指示します。
Webフォームは自動入力、そしてFAXで送られてきた用紙も遠隔でhapicom側から見られるため、相手の会社の人には最小限の注意をお願いする形をとれました。
また、郵送での返信以外の手段を二つも用意していることで、切手を貼付した封筒を同封しなくても許されるのではないかという少し狡い作戦があり、結果的には郵送を選択される方はほとんどいませんでした。
このような方法により、最小限のコストで複数チャネルの受付体制を整え、権利者の情報のアップデート作業を完遂させました。
全自動化への道
上記のような問題をITを駆使して解決するとなると、FAXも郵送も可能な限り自動化したくなるところですが、今回はいくつか理由があり、GoogleスプレッドシートとGoogleフォームでのデータ入力を軸とし、IP-FAXを導入する程度のITの導入としました。
理由の一つとして、送付先の整理や通知文書等を各権利者に送る作業からhapicomが関わる必要があったことが挙げられます。
それらの作業を進めつつ、確定的にできるかどうかわからない自動化(OCR:用紙に記入されたテキストの認識、スロットフィリング:用紙に記入されたテキストからの各項目抽出)を寄与のものとして走り出すことができなかったという現実的なハードルがありました。
また精度面で100%を達成できないのであれば結局人が介在せざるをえないため、時間や労力の都合上、100%を達成可能な自動化としてIP-FAXのみを導入したということになります。
複数を起点に発生するデータの流れを全て「Googleフォームへの入力からスプレッドシートに記録」という同じ終着点にもってくることで、意外と自動化を多用しなくてもすっきりとしたシステムとなりました。
もし今後、長期的に複数チャネルの受付体制を維持し続ける必要がある場面があれば、どこまで自動化できるのかという問題にチャレンジしてみたいですね。